NBDモデルという確率モデルを聞いたことあるでしょうか.
森岡毅さん・今西聖貴さんが執筆された『確率思考の戦略論』に登場していましたね.
この本は数式が出てくるため,数学嫌いな方は読むのが難しかったと思います.
数式について細かい使い方が載っていなかったので,どうやって実務に応用すればよいか分からない人もいるでしょう.
今回は日本マクドナルドを例にNBDモデルの使い方を紹介します.
NBDモデルから分かったこと
日本には年120回以上マクドナルドを利用する人が100万人もいる!?
NBDモデルとは
NBDモデルとは消費者の購買行動を表した確率モデルです.
NBDモデルは以下の式で表されます.
$$ Pr = \frac{(1+\frac{M}{K})^K×Γ(K+r)}{Γ(r+1)×Γ(K)}×(\frac{M}{M+K})^r $$
p.027 確率思考の戦略論
難しそうな数式ですね.MやKなど見慣れない変数もあります.
この数式を解くと購入回数に応じた消費者の購買確率を求められます.
(NBDモデルの学術的な定義は以下であるが、分かりやすく購買確率が求めると思ってOK)
生活者の商品ブランドに対する選好度を数値化して表すモデル
博報堂 DY メディアパートナーズ ニュースリリース
数式の変数名について
ここで変数の意味を説明します.
- M:プレファレンス
- 聞き慣れないがマーケティングの専門用語であり、NBDモデルで最も重要視すべき値
- K:分布の形を決めるパラメータ
- K以外の値が求まれば、自然と求めることができる値
- r:購入回数
- Pr:r回のときの確率
この数式においてプレファレンス(M)は重要な意味があります.
そのため後ほど詳しく説明します.
ここでは軽く用語を押さえておくだけで良いでしょう!
NBDの意味について
NBDとは Negative Binomial Distribution の略称です.
日本語に訳すと「負の2項分布」と言います.
『確率思考の戦略論』で負の2項分布をあえてNBDと記述しているには意味があります.
NBDモデルは負の2項分布を拡張した(=一部修正した)確率モデルです.
2つを区別し,拡張したモデルであることを意味するためNBDと呼んでいます.
そのため一般的な負の2項分布を調べても全く違った数式が出てくることでしょう.
マーケティング用語:プレファレンスの解説
NBDモデルを語る上で欠かせないプレファレンスを解説します.
プレファレンスとは、消費者のブランドに対する相対的な好意度(簡単に言えば「好み」)のこと
p.022 確率思考の戦略論
もっと直感的にいうと、自分がどれだけその商品を気に入っているかを表したものです.
商品を選ぶ状況で例えましょう.
バーカウンターには5つの飲み物があります.
- 「お〜いお茶」
- 「デカビタC」
- 「コカ・コーラ」
- 「麦とホップ」
- 「氷結ZERO」
「このうち好きな飲み物を1つ飲んでください」と言われるとどれを選びますか?
私であれば「麦とホップ」を選びます.
理由はこの2つです.
- 仕事終わりでアルコールを読む余裕があったから
- 夕飯と一緒に飲むならビールが良かったから
飲み物を取った理由は人それぞれでしょう.
例)
- アルコールは飲まないから
- 甘いのが好き
- 炭酸が良い
理由からあって5つの中から1つの飲み物を選んだはずです.
選んだ理由はその人の好みが反映されていました.この好みをマーケティングではプレファレンス(Preference)と言います.
普段の買い物も含め,購買行動とはプレファレンスに基づいた消費者の「選択」と言えます.
プレファンレスが高い商品はよく売れる商品です.(みんなに選ばれる理由がある)
一方でプレファレンスが低い商品はあまり売れない商品です.
NBDモデルはその式の中にプレファレンス(M)があり、このプレファレンスの値を元に確率を計算します.よって、NBDモデルの計算結果は消費者の購買確率を表します.
実践:NBDモデルを使ってマクドナルドの消費者行動を明らかにする
ここまでお付き合いありがとうございました.
日本マクドナル(正式名称「日本マクドナルはホールディングス株式会社」)を使って分析します.
NBDモデルを解くためには以下4つのデータが必要です.
- 延べ購入者数(年間) or 少なくとも1回以上マクドナルドの商品を購入した人数(年間)
- マクドナルドで商品を購入する可能性がある人数(年間)
- ファーストフードカテゴリーの平均購入回数
- 売上高(年間)
このデータを元にNBDモデルを解きました.
この計算結果は以下の表になります.
2011年(平成23年)度 日本マクドナルドホールディングス株式会社 | 数値 |
マクドナルドの延べ購入者数(年間) | 14億人 |
マクドナルドで商品を購入する可能性がある人数(年間)※ | 7,469万1,240人 |
マクドナルドで商品を購入した人数(年間)※ | 5,973万4,342人 |
マクドナルド売上高 | 5,350億8,800万円 |
購入者1人あたりの売上 | 8,958円 |
ファーストフードカテゴリーの平均購入回数 | 23.437回 |
プレファレンス(M) | 18.744 |
パラメーター(K) | 0.422 |
※が付いた数値は推計値なので必ずしも正確な値ではない
計算は長いので別の記事に書きました.
気になる方はこちらをご確認ください.
計算結果
変数r, M, KをNBDモデルに代入します.
r = 0~10, M = 18.744. K = 0.422 を代入することで P(r)を求めます.
(r(購入回数)が11以上は全体1からそれまでの合計を引いて計算)
購入回数別に Pr が求まるので、購入する可能性がある人数(7,469万1,240人)と売上高(5,350億8,800万円)をそれぞれ掛けて計算します.
すると以下のような値が算出されました.
購入回数(r) | 推計確率(Pr) | 推計購入者数(人) | 推計売上高(円) |
0 | 0.200 | 1,493万8,305 | 0 |
1 | 0.082 | 616万0,798 | 551億8,716万5,905 |
2 | 0.057 | 428万3,028 | 383億6,648万6,602 |
3 | 0.045 | 338万1,323 | 302億8,919万7,873 |
4 | 0.038 | 282万8,821 | 253億4,000万2,275 |
5 | 0.033 | 244万6,594 | 219億1,608万6,861 |
6 | 0.029 | 216万2,138 | 193億6,798万4,910 |
7 | 0.026 | 193万9870 | 173億7,695万4,782 |
8 | 0.024 | 176万0043 | 157億6,610万4,062 |
9 | 0.022 | 161万0712 | 144億2,842万7,221 |
10 | 0.020 | 148万4,173 | 132億9,491万7,338 |
11以上 | 0.424 | 3,169万5,436 | 2,839億2,122万1,157 |
合計 | 1.000 | 7,469万1,240 | 5,352億5,454万8,986 |
これで2011年にマクドナルドを利用した消費者の購入回数別人数と売上高が求まりました.
これだけでは桁が多く分かりにくいのでグラフにしてみます.
こんな感じ.
形が変で見にくいため修正します.
購入回数(r)の幅をそれぞれ30とし,120回以上は1つにまとめましょう.
見やすくなりましたね.
グラフから読み取れること1
「マクドナルドを利用する層で最も多いのは年間1~30回利用する人たち」
「ファーストフードの利用」のアンケートを確認すると平均利用回数は約23回/年間でした.
グラフでも1~30回に利用者が集中していますよね.
グラフは2011年度ですが,ここで私の利用回数(2021年度)をグラフに当てはめてみます.
私はたいてい月に1回の頻度でマクドナルドを利用するので,年間になおすと12回です.
そのため1~30回の層に当てはまり, 1/4400万のお客さんと分かりました.
私の知人で週5回(平日毎日)マクドナルドへ行く人がいました.
もし1年間続けていると,年間260回使っていることになります.
よって年121回以上の層に当てはまり 1/100万のお客さんです.
グラフは121回以上をまとめているのでもっと稀有な存在でしょう.
このように自分の利用回数が分かれば,確率分布のどこに位置するのか分かるので面白いですね!
あなたはどこに分布しましたか?
グラフから読み取れること2
年間120回以上もマクドナルドを利用するお客さんが 全体の2%(=約100万人) いること
年間120回というと,3日に1回利用するペースです.
世の中には3日に1度マクドナルドを利用する人がいるんですね.それも日本100万人も!
この結果には驚きました!
グラフから読み取れること3
マクドナルドの売上に最も貢献している層は年間1回しかマクドナルドを利用しない人たち
その割合は全体の約8%
最も多い層は年に1度しかマクドナルドを使用しないお客さんです.
利用回数の違いでお客さんを区別してはいけませんね.
求められた値は本当に合ってると言えるのか?
NBDモデルの計算結果を紹介しました.
この結果を見て「計算結果は信頼できるのか?」疑問に思った方もいますよね.
もちろん,100%合っているとは言い切れません.
ネットで拾ったデータを使ったので怪しい点もありました.
- 購入者1人あたりの売上:8,958円
例えば1人あたりの売上は8,958円と求まりました.
平均年23回マクドナルドを利用するので1回あたりの支払い額はおよそ389.4円です.
これは感覚ですがちょっと少ないような気がします.500円くらいほしいかな.
修正を加えるとすれば,平均購入回数がもう少し高かったと思いました.
理由は,マクドナルドはファーストフードカテゴリーと Mac cafeのようなカフェカテゴリーにも属すると考えたからです.
カフェであれば利用頻度が高くなるでしょう.
よって実際にマクドナルドを利用した人数は今回睡気した5,900万人より少ないと思いました.
1回あたりの金額が500えんを超えるとより腑に落ちた気がします.
まとめ
今回はNBDモデルとその使い方を紹介しました.
『確率思考の戦略論』を読んだだけでは実務に応用するのは難しいですよね.
私も初めは苦労しました.
この記事のように具体例があると数式を理解しやすかったと思います.
是非他の企業にも応用してみてください.
このNBDモデルはP&GやUSJ、丸亀製麺など名だたる有名企業で使われています。 モデル自体の信頼性は十分です.
ちなみにどんな状況でもこの数式が使えるわけではなく、以下の条件に当てはまる場合にのみ適応されます.(toCなら当てはまることが多いですが、toBは当てはまらないため使用できません)
1) 消費者一人一人が独自に購買決定をしている。
p.25, 26 『確率思考の戦略論』
2) 購入行動はランダムに発生している。
3) それぞれのカテゴリーに対してほぼ一定のプレファレンスを持っている。
4) プレファレンスの高いものはより高頻度で購買される(ガンバ分布)。